Saturday, April 26, 2014

こしょは激怒した

※この物語はあくまでフィクションです。




こしょは激怒した。
必ず、かの邪知暴虐のカフェを除かなければならぬと決意した。
こしょには経営がわからぬ。こしょは、野中美郷のヲタクである。
スマホを扱い、フォロワーと遊んで暮して来た。
けれどもアイドルのブランドに対しては、人一倍に敏感であった。


きょう未明こしょは東京を出発し、野を越え山越え、何千里はなれた此の福岡の市にやって来た。
こしょにはヲタクとしての気概も、根性も無い。金も無い。
二三の、内気な野中美郷と二人暮しだ。
この娘は、秋葉原の劇場を、近々、卒業する事になっていた。
最後の握手会も間近かなのである。
こしょは、それゆえ、娘をこれから支えるための就職先を見つけに、はるばる市にやって来たのだ。
先ず、その面接を終わらせ、それから都の大路(天神西通り)をぶらぶら歩いた。
こしょには楽しみがあった。AKBカフェ&ショップ巡りである。
そのAKBカフェ&ショップ博多店を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく通わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。


歩いているうちにこしょは、カフェの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、カフェ全体が、やけに寂しい。
のんきなこしょも、だんだん不安になって来た。
ショップで逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の店に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、カフェは賑やかであった筈だが、と質問した。
若い衆は、首を振って答えなかった。
しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
老爺は答えなかった。
こしょは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「カフェっ娘は、メニューを殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、どんなメニューもそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんのメニューを殺したのか。」
「はい、はじめは桜、みんなで飲も?さまを。それから、岡田奈々のピリ辛カムジャ麺さまを。」
「おどろいた。カフェっ娘は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。私には作る事が出来ぬ、というのです。このごろは、ヲタクの来店客数をも、お疑いになり、カフェっ娘になり立てであろう人に、一人で店を守ることを命じて居ります。御命令に従うことで、メニューをつくることができず殺されます。きょうは、六メニュー殺されました。」
 聞いて、こしょは激怒した。「呆れたカフェだ。生かして置けぬ。」


こしょは、単純な男であった。
荷物を、背負ったままで、のそのそ厨房にはいって行った。
たちまち彼は、巡邏のスタッフに捕縛された。
調べられて、こしょの懐中からは推しタオルが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
こしょは、王の前に引き出された。
「この推しタオルで何をするつもりであったか。言え!」
暴君ディオニスは静かに、けれども威厳をて問いつめた。
その主の
顔は蒼白で、眉間は、刻み込まれたように深かった。
「カフェを暴君の手から救うのだ。」とこしょは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」主は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言うな!」とこしょは、いきり立って反駁した。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、ヲタクの忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。ヲタクは、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」
暴君は落着いてき、ほっと溜息をついた。
「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」
こんどはメロスが嘲笑した。
「罪の無いメニューを殺して、何が平和だ。」
「だまれ、下賤の者。」
王は、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、になってから、泣いてびたって聞かぬぞ。」
「ああ、王は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」
と言いかけて、こしょは足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の推しに、私という亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げ、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と暴君は、れた声で低く笑った。
「とんでもないを言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」
こしょは必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。美郷が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、このスマートフォンがあります。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの機械を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。
生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。
この嘘つきにされた振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りのスマートフォンを、三日目に壊してやるのも気味がいい。
人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りのスマートフォンを磔刑に処してやるのだ。
世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」

こしょは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、スマートフォンは、深夜、王城に召された。
暴君ディオニスの面前で、き友と佳き友は、二秒ぶりで相逢うた。
メロスは、友に一切の事情を語った。
スマートフォンは無言で首肯き、こしょをひしと抱きしめた。
友と友の間は、それでよかった。
スマートフォンは、縄打たれた。


こしょは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。




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続編なんてあるわけがなかった。

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